【裁判】デュープフィルム作成は販売委託契約の範囲内
<2010年8月12 日>
東京地裁 平成21年(ワ)第6604号
判決:平成22年3月30日
原告:カメラマン
被告:写真の現像フィルム賃貸業務等を業とする株式会社
【事件内容】
原告カメラマンと被告会社との間には販売委託契約が締結されたていたが、この契約に基づき被告会社が原告カメラマンより委託された写真のデュープフィルムを被告会社が作成すること及び写真をカタログに掲載することが原告カメラマンの著作権を侵害するものとして、原告カメラマンがその損害賠償請求を求めて争われた事件である。
【経緯】
時年月 | 内容 |
平成5年7月29日 | 原告カメラマンの写真の使用権の販売に関して、 原告カメラマンと被告会社との間で契約が締結される(販売委託契約) |
平成7年5月頃 | 被告会社が、原告カメラマンより委託された写真の デュープフィルムを作成 |
平成7年5月 | 原告カメラマンが被告会社に委託した写真が カタログに掲載される 尚、著作者としての原告カメラマンの氏名表示なし |
平成15年1月頃 | 原告カメラマンが、被告会社に対して販売委託契約の 解約を申し入れたことにより。販売委託契約終了 |
平成20年7月8日 | 被告会社が、カレンダー企画用のために、提携先に対して 原告カメラマンの写真を貸し出す |
平成20年10月23日 | 被告会社より原告カメラマンに対して、写真の使用料として 9975円を支払う旨の報告書を送付 |
平成22年1月5日 | 原告カメラマンが写真使用料9975円を受領しなかったため 被告会社は9975円を供託する |
原告カメラマンと被告会社との間で原告カメラマン写真の販売委託契約が締結されていた間を緑色の背景色にし、契約終了後は桃色の背景色にして違いを分かりやすくさせております。
なお、原告カメラマンと被告会社との間で締結されていた販売委託契約の内容を簡単に抜き出すと以下のようなものです。
・原告カメラマン写真の使用権の販売を被告会社に委託する。
・被告会社は「写真」を国内、海外の出版物、広告印刷物、その他 あらゆる用途に販売することが出来る 。「写真」の発表の際の クレジット表示について原告カメラマンは被告会社に一任する 。
【主な争点】
- 1. 被告会社が原告カメラマン写真のデュープフィルムを作成することは著作権侵害または著作者人格権の侵害にあたるか
- 2. 被告会社が原告カメラマン写真をカタログに掲載することは著作権侵害にあたるか。また、カタログ掲載の際に、著作者として原告カメラマンの氏名表示を行わなかったことは著作者人格権の侵害にあたるか。
- 3. 被告会社が、原告カメラマンとの販売委託契約終了後に、原告カメラマン写真を第三者法人に貸し出すことは著作権侵害にあたるか
【判決】
1.被告会社が原告カメラマン写真のデュープフィルムを作成することは著作権侵害または著作者人格権の侵害にあたるか
被告会社による原告カメラマン写真のデュープフィルムの作成は、販売委託契約期間中に行われた行為であり、かつ、同契約における被告会社の受託業務(原告カメラマンの撮影した写真の使用権の販売業務)に
関連して行われた行為であるといえる。
販売委託契約には、写真の使用権の販売方法等を特に指定したり、あるいは、制限(禁止)したりする旨の約定はなかった。よって、販売委託契約は、被告会社に対し、販売方法を特に限定することなく、原告カメラマン写真の使用権の販売を委託したものと解される。
また、販売委託契約上、写真の貸出しを必ずオリジナルフィルムによって行うことが予定されていたとは考え難く、むしろ、被告会社においてオリジナルフィルムからデュープフィルムを作成し得ることを前提に、写真の保全管理のため、デュープフィルムを顧客に貸し出すことが予定されていたものと認めるのが相当である。
デュープフィルム作成は著作権侵害にあたらないと認定
また、販売委託契約においては、写真のデュープ方法を特に指定したり、制限したりする約定はなかったことが認められる。
販売委託契約上、デュープフィルムの作成方法として、オリジナルフィルムとデュープフィルムの乳剤面同士を密着させてデュープする方法を採ることが制限されていたと解することはできず、被告会社が原告カメラマン写真のデュープフィルムを上記の方法により作成したことは、販売委託契約に基づき原告カメラマンから許諾された範囲内の行為であったと認めるのが相当である。
デュープフィルムの作成は著作者人格権の侵害にもあたらないと認定
2.被告会社が原告カメラマン写真をカタログに掲載することは著作権侵害にあたるか。また、カタログ掲載の際に、著作者として原告カメラマンの氏名表示を行わなかったことは著作者人格権の侵害にあたるか。
販売委託契約には、写真の使用権の販売方法等を特に指定したり、あるいは、制限(禁止)したりする旨の約定はなかったことが認められる。
また、受託者である被告会社の販売活動について、「写真を国内、海外の出版物、広告印刷物、その他あらゆる用途に販売することが出来る。」旨が約定されていた。
よって、被告会社が、使用権の販売を委託された本件写真の販売促進活動のため、カタログに原告カメラマン写真を掲載したことは、販売委託契約に基づき原告カメラマンから許諾された範囲内の行為であったと認められる。
カタログ掲載について、著作権侵害にあたらないと認定。
受託者である被告会社の販売活動について、「写真の発表の際のクレジット表示について原告カメラマンは被告会社に一任する。」旨が約定されていた。
よって、カタログに原告カメラマン写真を掲載する(写真の発表)に当たって、著作者である原告カメラマンの氏名(クレジット)を表示しなかったことは、販売委託契約に基づき、著作者である原告カメラマンが被告会社に対して許諾した範囲内の行為であったと認められる。
カタログ掲載にあたり、原告カメラマンの氏名表示を行わなかったことについて、著作者人格権の侵害にあたらないと認定。
3. 被告会社が、被告会社提携先を通じて原告カメラマンとの販売委託契約終了後に、原告カメラマン写真を第三者法人に貸し出すことは著作権侵害にあたるか
被告会社の提携先企業は被告会社の受託者として、第三者法人に写真の使用を許諾したものであり、この当該第三者法人は、広く一般に写真の貸出業を行う写真エージェンシーである被告会社の提携先企業にとって、不特定の者に該当すると認められる。
よって、被告会社の提携先企業に対して原告カメラマン写真の使用許諾行為を委託した被告会社にとっても、この当該第三者法人は不特定の者に該当すると認めるのが相当である。
したがって、被告会社が、被告会社の提携先企業に委託して、原告カメラマン写真を第三者法人に貸し出した行為は、原告カメラマン写真に係る原告カメラマンの著作権(貸与権)の侵害に当たる。
販売委託契約終了後の、被告会社の写真貸し出し行為について著作権(貸与権)侵害と認定
【結論】
争点3の著作権(貸与権)侵害の部分のみ損害賠償が認められ、原告カメラマンに対して被告会社が5万円支払うようにとの判決。
【考察】
デュープフィルム作成は販売委託契約の範囲内についての考察
藤枝知財法務事務所
代表:藤枝秀幸(弁理士・行政書士)
2009年に当事務所を設立し、著作権等の知的財産権の専門家として、主にIT系、エンタメ・芸能・コンテンツ系のクライアント様やクリエイター様等から多数の契約書業務や著作権相談のご依頼を頂いております。
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2011年5月30日、2011年5月31日
「開発費不要をうたうIT企業の思惑」「新事業モデル支える二つの契約形態」取材協力等
・日経コンピュータ2011年4月28日号
レベニューシェア契約に関する取材協力等
・2025年1月15日 All About『箱根駅伝に"異変"!?NIKEとadidasの「シューズ特許戦線」』執筆(Yahooニュースにも掲載)
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